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2013年4月18日 (木)

日本は自由主義国家か

麻生太郎氏は、2月25日の衆議院予算委員会で、共産党の笠井亮氏の質疑に対して次のように発言しました。

「私ども共産国家じゃありませんので、自由主義国家ですから」(2:00)

「日本が共産主義国家ではない」

というのは、麻生氏の言うとおりだと思います。

しかし、日本が共産主義国家ではないからと言って、麻生氏が自明の理であるかのごとく述べたように、果たして、

「日本は自由主義国家である」

と断言することは可能なのでしょうか。

ここで、改めて立ち止まって、この点を考えてみたいと思います。

古事記の仁徳天皇のくだりに、次の有名な逸話が記されています。

この天皇が、ある時、高い山に登って四方の国を眺望して言うには、「見渡すかぎり、国の中にかまどの煙の立つのが見えない。これは国に住む者がすべて貧しいからであろう。これから三年の間は、人民の租税や賦役をすべて免除することにしよう。」このように命じた。その結果、宮殿はすっかり傷んでしまい、そこここから雨が漏れるようになったが、決して修繕を命じようとはせずに、樋を掛けて雨漏りを受け、自分は雨の漏ないところに、場所を避けた。このようにして三年後に、また、山に登って眺望したところ、国の中にかまどの煙が、一面に空に立ち上っていた。そこで、人民も富み豊かになったものと考え、もういいだろうというので、前のように租税や賦役を課した。こういうわけで万民は栄え、使役に苦しむ事もなかった。それゆえ、この天皇の御世を称えて、聖の御世と言う。

(古事記下巻六二、[仁徳]系図、福永武彦による現代語訳)

この逸話に関連して、仁徳天皇御製として新古今集に掲載されているのが次の有名な和歌です。

高き屋にのぼりて見れば煙立つ民のかまどは賑わいにけり

天皇が国民を「大御宝」(おおみたから)と呼んで尊ばれ、民のかまどを気づかってこられたのが、伝統的な私たちの国のあり方なのであり、1%の強欲な人間が99%の人間を奴隷のように搾取するような社会のあり方は、日本の本来の姿では決してありません。天皇と民が相互の信頼関係で結ばれていたからこそ、中国のような易姓革命による王朝の交代は日本では起きませんでした。

そして外国人の記述によれば、明治維新前後の日本人は次のようだったそうです。

「日本を旅すると、人々の持つある種の陽気さに慣れてくる。日本女性の目は、ほとんど常に愛想の良い快活さが宿っており、楽しそうにきらめいている。そしてこちらもつい微笑み返さずにはおれなくなる。彼女たちにとっての人生は、まるで遊びやピクニックであるかのように見える。 」(G. W. ギルモア, 1892)

「日本人は常にユーモアにあふれ快活である。私は親しくなった日本人たちが憂鬱な顔をしているのを一度も目にしなかった。彼らは活き活きとした会話や冗談が大好きで、仕事をするときには必ず歌を歌う。」(V. M. ゴロヴニン, 1819)

「下層の人民は例外なしに、豊かで満足しており、働きすぎてもいないようだった。貧しい様子も見られたが、物乞いをする人のいる形跡はなかった。・・・最下層の階級さえも、気持ちのよい服装をまとい、目の荒い木綿の衣服を着ていた。」(M. C. ペリー, 1856)

「私は日本が子供の天国であることをくりかえさざるを得ない。世界中で日本ほど、子供が親切に取り扱われ、そして子供のために深い注意が払われる国はない。ニコニコしているところから判断していると、子供たちは朝から晩まで幸福であるらしい」(エドワード・S・モース, 1917)

「私はこれほど自分の子どもに喜びをおぼえる人々を見たことがない。子どもを抱いたり背負ったり、歩くときは手をとり、子どもの遊戯を見つめたり、それに加わったり、たえず新しい玩具をくれてやり、野遊びや祭に連れて行き、子どもがいないと心から満足することができない。他人の子どもにもそれなりの愛情と注意を注ぐ。父も母も、自分の子に誇りをもっている。毎朝六時ごろ、十二名か十四名の男たちが低い塀に腰を下ろして、それぞれの腕に二歳にもならぬ子どもを抱いて、かわいがったり、一緒に遊んだり、自分の子どもの体格と知恵を見せびらかしているのを見ていると大変面白い。その様子から判断すると、この朝の集まりでは、子どもが主な話題となっているらしい」(イザベラ・バード, 1880)

では、世界に先んじて産業革命を成し遂げ、自由主義経済学を確立したアダム・スミスを輩出し、19世紀には既に自由主義国家となっていたイギリスはどうだったか。

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上の写真のように、強欲な資本家によって、立場の弱い子どもや女性までもが奴隷のように搾取されこき使われる社会がイギリスでは生まれていました。

このようなイギリスの姿と日本の姿を比較すれば、「日本は自由主義国家である」と単純に言うことができないことはお解りいただけると思います。

「社会主義(共産主義)」が必要とされたのは、あくまで、このような「自由主義」に陥っていた西洋の国々であり、もともと伝統的に「自由主義」の国ではない日本には、「社会主義(共産主義)」は必要性すらなく、そのような人工的なイデオロギーや革命の力を借りなくても、とっくの昔に、日本は、世界の他の国々に比べて、一般の民衆や子どもや女性が尊ばれる平等な社会を実現していました。

「自由主義」も「社会主義(共産主義)」も西洋で生まれた人工的なイデオロギーですから、いずれも日本の伝統的な社会のあり方には合致せず、いずれのイデオロギーを採用したとしても、日本の本来のあり方を歪めてしまったはずです。

しかし、「どうして冷戦的二極構造は日本に有効でないか」という記事で以前述べたことですが、戦後、冷戦的二極構造の狭間に立たされ、サンフランシスコ条約によって、アメリカを筆頭とする「自由主義」陣営に組み込まれ、同時に日米安保条約によってアメリカ軍の駐留が恒久化され、「自由主義」のイデオロギーに基づいて日本の伝統的な国柄や国家体制が変質させられていったのが、戦後の日本です。この「戦後レジーム」の最後の総仕上げが、今目前に迫るTPPと道州制による日本の国家解体です。

私たちは、

「日本は共産主義国家ではない」

と言うばかりでなく、

「しかし、同時に日本は自由主義国家でもない」

と言わなくてはなりません。

「自由主義」だの「社会主義(共産主義)」だのといった外国の思想に振り回される以前の、日本の本来の国柄の再認識が国民の間に広がっていかなくてはなりません。

何度も申し上げてきたことですが、「右」か「左」か、「自由主義」か「社会主義(共産主義)」か、「アメリカ」か「中国」かといった、単純な善悪二元論ほど日本の本来の国柄を損なうものはありません。

そして自民党こそが、冷戦的二極構造という単純な「善悪二元論」の中に日本を閉じ込め、がんじがらめに絡めとることで「自由主義」というイデオロギーの下で日本の国柄を壊してきた張本人です。

そして、彼らは、現在も、二極的二元的な構造の中に私たちを追い込むという同じ手法で、私たちを逃げられなくし、国家破壊を極限まで推し進めようとしています。

「右」でも「左」でもない、「自由主義」でも「社会主義(共産主義)」でもない、日本の本来の国柄を再認識してそれを守ろうとするような政権を、私たちは誕生させなくてはなりません。

「正しい歴史認識」とは、本来守るべき国柄に関する、「自由主義」にも「社会主義(共産主義)」にも絡めとられることのない、日本人による深い自己認識のことを言うのであり、単に政治家がこれ見よがしに「慰安婦は高給取りの売春婦である」と述べて、中国や韓国による反日プロパガンダを否定してみせることばかりが「正しい歴史認識」なのではありません。


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コメント

「しかし、同時に日本は自由主義国家でもない」
全くその通りですね

三権分立などと程遠い日本の現実
権力よりな司法のため冤罪がまかり通っている

権力の番人であるはずのマスコミが
権力から機密費を貰い癒着している現実

投稿: お天気 | 2013年4月18日 (木) 13時06分

WJFでIWJの話をするとややこしくなるかもしれませんが、

2013/04/15 改憲論者・鈴木邦男氏が警鐘「安倍政権が改憲するなら現行憲法のほうがマシ」―「右傾化する日本」を新右翼としてどう見るか──改憲、愛国心強制、排外主義を乗り越えて

を見て

SAPIO5月号 小林よしのり『ゴーマニズム宣言』右翼とは何か? 左翼とは何か?

を読んで、何が右やら、何が左やら考えていました。この鈴木邦夫氏の正体など知りませんし、考えが違う部分も多々ありますが、自称「40年右翼をやってきた」人の証言として、一つの時代を生きてきた人の証言として、その話には興味深いものがありました。
 一方、中韓を嫌いヘイトスピーチするのが愛国で右翼だと思っている人たちから見ると、この鈴木氏は偽右翼で左翼なのだそうです。もう何が何やら。
 私の記憶では天皇皇后両陛下はある時「お隣の国ですから仲良く」と発言されていたはずで、もしもそれが時の総理大臣の発言でしたら「ふざけるな、あんな国と仲良くなんて」と思うところですが、陛下がそういわれるのなら、相手に対して言うべきことは言いつつ、毅然とした態度を保ちつつ、思うところはあっても陛下のお気持ちに従うのも日本国民の姿なのかなとも思うわけで、あのヘイトスピーチの映像を両陛下がご覧になられたらと思うと、間違っているのはどちらなのか、それが愛国者なのかと・・・。
 脱線してしまいましたが、WJFさんは安倍政権下での改憲についてどのようにお考えですか? 
 私は形式上、表面上は日本国民を満足させるものが出来るかもしれませんが、実質、中身は、日本がアメリカにとって「より都合のいい国」になるだけなのではと疑っています。

投稿: やみ子 | 2013年4月18日 (木) 05時40分

この記事へのコメントは終了しました。

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