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2013年3月22日 (金)

ノーベル経済学賞受賞者が警告するTPPの危険性

2001年にノーベル経済学賞を受賞したジョセフ・E・スティグリッツという経済学者が、安倍首相を表敬訪問したと報じられています。

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ノーベル経済学賞のスティグリッツ教授が安倍首相らと会談 アベノミクスを「支持」

ノーベル経済学賞受賞者のジョセフ・スティグリッツ米コロンビア大学教授は21日、安倍晋三首相、甘利明経済再生相とそれぞれ会談した。会談を終えたスティグリッツ教授は記者団に「安倍政権の景気刺激策は、短期的な(景気浮揚といった)課題だけでなく、同時に、長期的な課題の解決にもつながることを指摘した」と語り、安倍政権の経済政策「アベノミクス」を支持した。

 また、1千兆円近い国・地方の債務を抱えるなど財政が厳しい状態にあることについても「日本はまだまだ経済のポテンシャルがある。経済を成長させれば債務を減らすことができる。そのためにもデフレの脱却がまず第1だ」と語った。

 安倍首相は、「教授から支持する発言をもらって心強い」と語った。甘利氏との会談は15分の予定だったが、50分超となるなど、活発な意見交換となった。

 双方の会談には内閣官房参与の浜田宏一・米エール大学名誉教授も同席した。(産經新聞)

アベノミクスを絶賛したスティグリッツ教授ですが、『世界を不幸にしたグローバリズムの正体』という著書でも知られるとおり、グローバリズムに対する批判者としても有名です。

2007年、日本が小泉構造改革によってもたらされた格差社会の傷に痛んでいた頃に書かれた記事を引用してみましょう。長い記事ですが、そのまま引用します。まだTPPにアメリカが参加する以前に書かれた記事ですが、彼がこのインタビューで指摘した事柄はそのままTPPにも当てはまります。

ジョセフ・E・スティグリッツ/Joseph E. Stiglitz 世界で最も有名な経済学者が問う「アメリカの横暴」と「ニッポンの覚悟」

「格差社会」解消の処方箋(月刊現代 2007年4月号)

「グローバリゼーションは世界の人々に幸福をもたらすはずだった。だが、実際にはごく少数の金持ちがますます裕福になって、格差を広げただけだった。そしてこういう結果を招いた背景にはアメリカの横暴がある」
2001年、経済活動への情報の影響について扱う学問「情報の経済学」の分野の功績を評価されて、ノーベル経済学賞を受賞したジョセフ・E・スティグリッツ氏は、グローバリゼーションの「失敗」と、その「理由」についてこう説明した。氏は1993年にクリントン政権の大統領経済諮問委員会に参加し、95年より委員長に就任、97年から約3年間は世界銀行の上級副総裁兼チーフ・エコノミストを務めた人物である。2002年に上梓した『世界を不幸にしたグローバリズムの正体』は、世界38ヵ国で翻訳され100万人以上に読まれ、03年に書いた『人間が幸福になる経済とは何か』では、IMF(国際通貨基金)の在り方に強い懸念を示した。
06年11月に日本でも出版された『世界に格差をバラ撤いたグローバリズムを正す』(徳問書店・原題 Making Globalization Work)は、アメリカのエゴにゆがめられ、不公正なルールに支配されたグローバリゼーションを痛烈に批判している作品だ。現在コロンビア大学教授として活躍中の、世界で最も有名な経済学者スティグリッツ氏に“グローバリゼーションが私たちに何をもたらしたのか"、そしてグローバリゼーションが抱える問題を解決するにはどんな改革が必要かを聞いた。


-グローバリゼーションが世界にもたらした最も大きな失敗とはどんなものでしょうか。

スティグリッツ(以下S) 現在、世界人口65億人のうち、およそ40%が一日を2ドル以下で生活する貧困状態にあり、およそ14%が一日を一ドル以下で生活する極貧状態におかれている。こうした人々の一日は、燃料や飲料水を探すことで費やされる。そんな暮らしを強いられている人を、地球上に20年前より増やしてしまったのが、グローバリゼーションだ。特にアフリカでは極貧者の数が、1億6400万人から、3億1600万人に倍増している。

-そもそもあなたが問題にしているグローバリゼーション、グローバリズムとは、どんなものを指すのですか。

S 一般的概念でいうグローバリゼーションとは世界中の社会が一つに統合されていくことだ。アイデアや知識、そして社会運動や政治運動までが国境を越えることだ。だからグローバリゼーションが進んだ現代社会において国という枠組みは昔ほど意味を持たなくなっている。私が研究してきた経済のグローバリゼーションとは、世界の経済がより緊密に統合されること。人工的な障壁を取り去り、国境を越えて、モノやサーピス、人や資本が動くことである。

ーグローバリゼーションの流れはいつ頃から活発化したと考えられるのでしょう。

S グローバリゼーションそのものは昔からあった。コーヒーはエチオピアで発見されたが、いまではグローバルに存在する。南米アンデス山脈が原産地とされるジャガイモのような、我々が日常的に口にする食べ物のほとんどは新世界から来たが、現在はどこにでもある。私が問題にしている、近代のグローバリゼーションは、25年ほど前に始まっている。輸送コストやコミュニケーションコストが急速に低下した頃からだ。
莫大な資本が国境を越えて移動するようになってグローバリゼーションは加速した。この進化にインターネットの果たした役割は特に大きい。知識のグローバリゼーションを進めたり、コミュニケーションコストを低下させたりしたからだ。

アンフェアな『世界の支配者』

-グローバリゼーションは世界中に不幸だけをもたらしたのでしょうか。

S まずグローバリゼーションがさまざまな分野における成功の基盤になっていることを指摘しておきたい。つまり、たくさんの成果をもたらしてきたということだ。たとえば日本や中国を含む東アジアの成長は、それらの国の政府がグローバリゼーションを無条件で受け入れるのではなく、上手にコントロール・管理した結果、成し遂げられたものだ。
グローバリゼーションは本来、先進国と発展途上国の双方に利益をもたらすはずのものだが、この「ゲームの支配者」は発展途上国に対して非常にアンフェアだった。そのためこれらの国のほとんどで失業率が上昇し、先進国と途上国の格差は増大した。さらに先進諸国における国民の貧富の差すらも拡がった。金持ちはより金持ちに、貧困層はますます貧困になっていったのである。グローバリゼーションが不平等をさらに拡大させたことは事実だ。

-ゲームの支配者とは誰で、どこが誤りだったのですか。

S たいていの場合、このゲームを動かしているのはアメリカに代表される先進工業国や先進国内の特定の利益集団で、ルールは彼らによって決められており、自分たちの利益を増大させるようにつくられた。たとえばウルグアイ・ラウンド(1986~95年、貿易における障壁をなくし、貿易の自由化や多角的貿易を推進するために行われた通商交渉)では、途上国が関税の引き下げと知的財産権や投資やサービスの新しいルールを受け入れる代わりに、先進国側は農業・繊維分野の貿易自由化を約束したが、先進国はその取り決めをなかなか果たそうとしなかった。繊維については自由貿易の障害となっている割当制度廃止までに10年の移行期間が設定され、農業補助金については廃止の目処さえ立たない有り様だったのである。

-こうした不平等がまかり通っているのは、グローバリゼーションの舵取りを任されているIMFや、世界銀行の在り方に間題があるからだと指摘していますが、それはどういうことですか。

S 世界の金融システムを監督するのが仕事のIMFでは、実質的にアメリカ一国だけが拒否権をもっているし、経済開発促進を担う国際組織の世界銀行の歴代総裁はアメリカ大統領が指名してきた。だからIMFではドルの意向がすべてで、世界銀行の決定にはアメリカの政治事情が強く反映されてきたのだ。このような組織が途上国の意見や懸念に重きをおくはずがない。

-あなたは、グローバリゼーションの中できわめて大事な要素である貿易の自由化と資本市場の自由化に関わる攻策枠組みをつい最近まで決定してきたのはIMF、世界銀行とアメリカ財務省だったと指摘しています。だが、いま彼らの間で結ばれた合意(ワシントン・コンセンサス)は、ほとんどの途上国からすっかり信頼を失っています。その政策の誤りは何に起因するのですか。

S 最も基本的な間違いは市場原理主義への信奉によって生まれた。つまり、市場そのものがあらゆる問題を解決してくれるから、政府の役割を最小化していくべきだという考え方だ。民営化と貿易の自由化と規制緩和を重要視したのだ。だが大事なのは、政府の役割と市場の役割のバランスである。私は開発促進や貧困層保護で政府に大きな仕事をさせるべきだと考えている。産業界を成長させて雇用を創出するには、その環境を政府が整えてやらねばならないのだ。
二つ目の間違いは、公平性の問題を無視したことだ。つまり富の配分について考慮しなかった。コンセンサスを支持する者の中にはGDP(国内総生産)さえ伸びていけば最終的には皆がおこぼれにあずかれるという、「トリクルダウン理論」を信じる人もいた。だがそれは誤りだった。ラテンアメリカの国々ばかりでなくアメリカでさえ、経済がよくなったのに、貧しい人が増加するという現実に直面することになった。そして、こうした不平等が広がり、格差が大きくなると社会や政治の不安定につながり、それが経済成長の障害にもなった。重要なのは、各国が公平性の実現に重点を置き、成長の恩恵が広く共有されるように手を打つことなのである。

途上国の人間より“裕福”な欧州の牛

-発展途上国のほとんどがグローバリゼーションの波の中で経済的敗者となりましたが、あなたは、中国とインドは違うと指摘しています。なぜ2ヵ国はこの25年間で勝者となり得たのですか。

S 中国は巨大生産基地として、インドはコンピュータ・プログラミングやカスタマー・サーピスなどの高技技術を誘致して成功を収めた。両国がグローバリゼーションに上手に対応できたのは、長い間、教育とテクノロジーに莫大な投資をしてきたからだ。これこそが、インターネットがもたらした新しいチャンスを利用することを可能にしたのである。
また資本の自由化に対する姿勢も他の国々とは違った。長期投資向けには市場を開放しても、短期の資本流入には制限をかけ続けたのだ。一晩の間に入って出ていくようなおカネがいくらあっても工場建設はままならないし、新たな雇用は生まない。中国とインドは、短期の資本移動は経済の不安定化と、報酬なきリスクしかもたらさないことを理解していたのだろう。彼らはつまり自分たちがグローバリズムに利用されないようにして、逆に利用したのだ。

-あなたとコロンピア大学で同僚だったフレデリック・ミシュキンは、昨年9月の米連邦準傭制度理事会(FRB)理事就任演説で「グローバリゼーションは発展途上国の生活水準を高める」と述べて、さらに推進すべきだと強調しました。あなたとはまったく正反対の考えです。ミシュキンの主張をどう思いましたか。

S ミシュキンはいくつか間違いを犯している。そもそも彼は金融のグローバリゼーションしか見ていない。他の面の考察をしない上に、その悪影響を無視している。短期資金移動や継続的資金移動が、途上国の不安定を助長したことは事実であって、グローバリゼーションは成長を助けてはいない。
東アジアで97-98年に起きた金融危機、ラテンアメリカやロシアのグローバルな金融危機の原因を分析すればそうしたことは明らかだ。ミシュキンは自分が主張していることに対する反証を無視しているのだ。

-グローバリゼーション流れの中で自由貿易を推進してもなぜ途上国の生活レベルは上がらないのですか。

S まず言いたいのは、世界のどこにも本当の意味の自由貿易は存在していないということだ。特にアメリカはこれを本質的に推進したことは一度もない。口で言ったとしても、それはレトリックに過ぎないのだ。いままで先進国は裁量的に関税が認められ、同じ先進国の製品には低い関税率を、一方、途上国の製品には平均して4倍もの関税率を設けてきた。さらに途上国は産業育成のための補助金の撤廃を強いられるいっぽう、先進国は巨額の農業補助金を継続することを認められてきた。

-具体的には現場でどんなことが起きているのですか。

S たとえば、アメリカとEUと日本の農業補助金の総額は、サハラ以南のアフリカ諸国の総所得の75%を超える額にまで上っている。アフリカの農民が世界市場で競争することなど不可能だ。もっとわかりやすい例をあげよう。欧州の牛は一日平均2ドルの補助金を受けている。一方、途上国の過半数の人々は、一日2ドル以下での生活を余儀なくされている。つまり途上国で貧者として暮らすより、欧州で牛として暮らすはうが、経済的に豊かな生活を送れるのだ。

-ではこうした補助金はどうしたらいいでしょうか。

S まず農業補助金は小家族経営農業とその伝統的な生活様式を守るために使われていると、アメリカではよく語られるが、これはウソだということを知らねばならない。実際には多くの部分が大手農場に渡っており、そのうちのかなりは企業に経営されている。補助金によって大手農場は農産物を大量に安く生産することが可能になり、途上国の農民を圧迫している。こうした循環を断ち切るためには補助金を撤廃するのがいいだろう。先進国が、移行期間が必要と考えるなら、まず所得の高い農家に対してのみ全廃とする手もある。補助金撤廃は、農産品価格の上昇を通じて、ほとんどの人々が農業に依存している途上国に莫大な利益をもたらすだろう。

-関税に関して最初に改めるべきことはなんですか。

S 発展途上国全体の70%の人口は農業従事者であるから、多くの途上国は農業国と言えよう。先進諸国は未加工品の関税を低く、加工品の関税を高く設定している。この「傾斜関税」こそが農業国の工業化意欲を挫いているのだ。したがって、最初に行うべきことは、この傾斜関税の撤廃である。

途上国民への『死刑宣告』

-知的財産権をめぐっても、あなたはアメリカをはじめとする先進国の姿勢を批判していますね。

S そもそも先進国と途上国とを分けるものは、資源の格差のほかに「知識(情報)の格差」がある。これを縮小させる作業は、知的財産権(発明や考案など主に人間の創作活動によって生み出されるものをめぐる権利)制度によって、たやすくも難しくもなる。しばしばアメリカは貿易協定のなかに知的財産権保護を名目にした条項を押し込んで、途止国が知識にアクセスすることを困難にして格差縮小を遅らせている。

-あなたはこの間題で最も深刻なのは医薬品に関するものだと述べています。

S アメリカは途上国におけるジェネリック(後発)医薬品(特許期間などが満了し、特許権者でない医薬品製造企業がその特許内容を利用して製造した同成分を誇つ医薬品)の製造を遅らせるべく、貿易協定に特別な条項を入れようとする。ジェネリック医薬品は従来の商品よりかなり安く作ることができ、安価で売られるから、おカネのない途上国の国民を助け、ときには命を救うことになるものだ。だから逆に言えばアメリカのやっていることは、何千人もの途上国の人間に対する「死刑宣告」になりかねない。なぜならその薬がエイズ治療薬のこともあるからだ。アメリカの歴代首脳の中でもブッシュ大統領はこの問題においで、罪は重い。

-なぜアメリカ、あるいはブッシュ大統領はこうした非人道的なことを平気でしているのでしょうか。

S ブッシュ大統領に最も影響力をもつのが製薬業界だからだ。彼らが知的財産権を強化しろ、特許権の寿命を延ばせとブレッシャーをかけている。もしこうした動きが無規され発展途上国でのジェネリック医薬品の製造が認められてしまえば、アメリカの製薬会杜の利益は一気にしぼんでしまうことになる。いま必要なのは、こうしたアメリカなどの行動を後押ししているTRIPS(知的財産権の貿易側面に関する協定)を改定することだ。つまり、知的財産権と貿易との関係を見直して、たとえば発展途上国がジェネリック医薬品にもっとアクセスしやすいようにするのである。そして私たちも、製薬会杜が発展途上国を襲っている病気がどんな種類のものかすら、リサーチしていないことを知るべきだ。

-知的財産権制度の不公平さは、途上国で使われてきた「伝統薬」に対する先進国の姿勢をみれぽわかると指摘していますが、それはどういうことですか。

S 世界のあらゆる場所には昔から様々な病気の治療に使われてきた独自の伝統薬が存在する。ところが研究者や製薬会杜は、現地ではずっと以前から使われていた治療薬を次々と「再発見」していった。ひどいケースでは、ほとんど新たに何も手を加えずに、自社ブランド品として販売していた。バイオバイラシー(生物資源をめぐる盗賊行為)を先進国の企業が世界中で行っているのだ。

-知的財産権の便用料は払われなかったのですか。

S それどころか、盗んだ知的財産権の使用料を途上国に請求しているのだ。こんな例がある。インド産の二-ム油には昔から美容と治療、害虫駆除の効果があることが知られていた。ところが1990年代、欧州とアメリカは勝手にニーム油に関する特許を取り、2000年までにその数は欧州だけで90にもなった。これに気付いたインド人のある起業家の訴えで、03年までに欧州では特許の多くが取り消され、20ほどに減った。だがこれに応じなかった国がある。アメリカだ。ニーム油に関するアイデアはいままで文書化も特許化も一度もなされてきたことがないと、拒否したのである。

日本はアメリカともっと戦え

-日本でも格差が広がっていると言われていますが、その原因はやはりグローバリゼーションにあると思いますか。

S 他の先進国でもそうだが、日本でもグローバリゼーションが影響していること間違いない。発展途上国の非熟練労働者と先進国の非熟練労働者とが競争することによって、彼らの賃金が下がり、熟練労働者との収入差が拡大するという現象は、グローバリゼーションに内在するロジックの一部だ。だから、日本でも貧富の差が広がる原因の一部になっていると思う。だがこの点はアメリカのはうが日本より深刻だ。社会が不平等であるし、セイフティ・ネットも医療制度も弱いからだ。格差杜会に私が薦める処方箋は、教育にもっと投資して、非熟練労働者を少なくすることである。そして、一つの職業から別の職業に転職しやすいように職業訓練プログラムを充実させ、累進課税をもっと徹底させ、低収入の人からあまり税金を取らないことだ。

-日本を含め世界はアメリカの横暴にどう立ち向かうべきですか。

S まず国連のような国際機関の権力をもっと強化しなければならない。国連はイラク戦争に関して正しい判断をしたが、アメリカの暴走を止めることはできなかった。そしてアメリカは国連の判断を無視して、先制攻撃をしてしまったのだ。アメリカが支配しているIMFや世界銀行の人事も民主的にすべきだ。そしてグローバリゼーションについて、世界中でみながさらに議論することが大事だ。私が指摘してきたような問題の重要性を認識することが必要である。

-日本はグローバーリゼーションの流れの中でどのように戦えばいいのでしょうか。同盟国アメリカに対してどのように振る舞うべきですか。

S もっと独立して行動すべきだ。たとえば1997年の東アジア通貨危機のときに、日本はアジア通貨基金の創設を提案し、経済回復に必要な資金を拠出するという、とてもいいアイデアを申し出た。だがアメリカとIMFは、アジアでの自分たちの影響力が弱まることを懸念して、それに猛反対した。結果、日本の計画は頓挫して、インドネシア、韓国、タイに景気後退という悲劇をもたらした。残念なことに、日本は、アメリカの低抗に遭ったとき、アジア全体のために反論して、十分に戦おうとはしなかった。日本がアジア通貨基金の設立のためにもっとがんばっていれば、それはアジアのためにも世界のためにもなっただろう。日本はさらに自信を持って独立して行動してほしいと思う。
イラク戦争のときも日本を含む他国がもっとブッシュ政権にプレッシャーをかけていたら、アメリカにとってよりよい結果が出たかもしれない。アメリカ市民は、2002年に他国が断固としてブッシュ政権に立ち向かってくれていたらよかったのにと、考えているだろう。

誰がグローバリゼーションを正すぺきか

-日本の景気回復をどうみていますか。いざなぎ景気(1965~70年)以上にいい状況との見方もありますが、それを信じてよいですか。今年1月、日本銀行は金利を上げる構えをみせましたが、あなたはそれを支持しますか。

S いざなぎ景気以上にいいと言えるような状況ではない。数字をみると、1989年ごろに始まった、15年間のゆっくりとした成長から、ついに強く抜け出して回復しつつあるように見える。それはとてもいい知らせだが、60年代70年代の回復ぶりとは違う。日本の現状をみると、その当時のペースで成長できるかどうかは未知数だ。そして、日銀が金利を上げるのは誤りである。現時点でインフレになる気配や証拠はない。もしその政策が実行されれば景気の減速を招き、経済を停滞させる可能性すらある。

-アメリカ国民はグローバリゼーションを支持しているのですか。

S アメリカ国民はグローバリゼーションについて様々な意見を持っている。まさに賛否両論だ。グローバリゼーションは、確かに恩恵をもたらしたが、犠牲も払わせた。この点は日本と同じだ。そしてグローバリゼーションのせいでますます貧富の差が拡大した。懸念すべきことは、最貧困層がさらに貧しくなったことだ。
私が生まれ育ったインディアナ州のゲアリーという町はもともと鉄鋼業の町だったが、グローバリゼーションの競争に負けた。市氏は犠牲になったと思っている。失業者も多数出た。韓国や中国の効率のいい鉄鋼業者に勝つことができなかったのだ。ところがこの町の大観模な鉄鋼会杜が、オランダのロッテルダムに本拠がある、ミッタルという鉄鋼会杜に買収されると、今度は多くの雇用を生み出し始めた。再建されて、以前よりも効率がよくなったのである。この町を見ているだげでも、グローバリゼーションには光と影の部分があることがわかるだろう。
これまでグローバリゼーションは誤った方向に進んできた。その責任の多くはアメリカにある。しかし、世界に存在する公正なグローバリゼーションを求める声に応えるのもまた、アメリカしか考えられないのも事実なのだ。

スティグリッツ教授は、実は、日本に訪問してアベノミクスをほめたたえる直前にタイを訪問し、次のような講演を行い、TPPに参加するなとタイの人々に警告を発しています。The Nationというタイの英字新聞の記事から引用します。

Avoid mistakes of the West: Stiglitz

Kingdom needs its own growth model, must opt out of TPP, Nobel laureate advises

Emerging markets including Thailand, other Asean countries and China should "decouple themselves from Western markets", Nobel laureate economist Joseph Stiglitz said during a speech in Bangkok yesterday.

To be able to grow, emerging markets must be less dependent on exports, boost domestic consumption and find their own model of sustainable economic growth, the US economist said.

Stiglitz said the most serious questions facing the global and regional economies were whether the euro zone would survive; whether the European Union would drop the austerity policies that have caused recession and switch to a policy of growth; and whether the US will be able to move beyond its current gridlock. Stiglitz expected not more than 3 per cent growth in the US in the near future, adding that the country needs to reduce its significant unemployment level. But full employment was not in sight this decade, he said.

"It's going to be a long time before we can get back to what I may call normal," he said.

He also expected emerging markets, China in particular, to be able to decouple their economies from Western economies and develop in a sustainable way.

Stiglitz was speaking during an on-stage interview with Nation Multimedia Group chairman Suthichai Yoon. He earlier gave a lecture on the global economic outlook as part of an international academic seminar at Dhurakij Pundit University.

The Nobel laureate opposes austerity measures, saying they had proven to lead to recession and depression. To avoid repeating developed countries' mistakes, newly emerging economies should invest in education, technology, the environment and public health and find a sustainable model of economic growth, he said.

"Focus on quality of growth, environment, living standards and how the benefits are shared," he said.

US innovations had contributed in part to the country's current economic instability. The innovations were created to save labour costs, but now unemployment rates are problematic, he said.

The US and European countries, as well as Japan, also need structural and educational reforms, but implementing them was difficult now that they were facing economic problems, Stiglitz said.

"From the point of view of the region and from the point of view of the planet, it's going to be very important for China to develop a new model of economic growth, because if it imitates the economic growth of the United States based on [unchecked] consumption and material goods, our planet won't survive," he said.

Discussing the problems in the euro zone, he voiced opposition to the idea of a common currency - a direction in which Asean might be heading.

"If you go down the common currency [route], that is a bad idea. You need to talk about Asian cooperation," he said. "Sharing a currency takes away the ability to adapt, to adjust," he said.

"A common market is a good idea; while the issues of the market are relatively small, they can still benefit from economy of scale."

Stiglitz said corporations' lobbying of politicians was standing in the way of resolving economic problems.

He also warned that the Trans-Pacific Strategic Economic Partnership (TPP) that the US is trying to reach with other countries is dangerous.

"While negotiations are behind closed doors, cooperation is on the table," he said.

Drug companies, for example, are among the corporations lobbying politicians in secret negotiations, he said.

"The objective [of drug companies] is to make profit. The way they do this is to make you pay high prices even though the basic research is paid for by the American government," he said.

"They are very bad for the development of generic drug industries. Thailand is one of the good countries in this area. It would be a mistake for you to give up on that. And if you join the TPP, you will have to," he said.

During his visit to Thailand last year, US President Barack Obama tried to convince Thailand to join in the TPP.

欧米の失敗を避けよ。

タイは、独自の成長モデルを必要とし、TPPからは撤退しなくてはならないと、ノーベル賞受賞者は提言した。

タイや他のASEAN諸国、そして中国を含む新興市場は、欧米市場と切り離されるべきであると、ノーベル経済学賞受賞者ジョセフ・スティグリッツは、昨日、バンコクでの講演で述べた。

成長を可能とするために、新興市場は輸出依存度を減らし、国内消費を高め、独自の持続可能な経済成長を見つけるべきであると、このアメリカの経済学者は述べた。

スティグリッツは、グローバル経済と地域経済の両者が直面する最も深刻な問題は、ユーロ圏が存続できるかどうか、EUが、不況をもたらしてきた緊縮策を取りやめて、成長策に切り替えられるかどうか、またアメリカが現在の停滞を乗り越えられるかどうかである。また、アメリカは今後3パーセントを超える成長率を期待できず、深刻な失業率を下げる必要があると付け加えたが、完全雇用は、今後10年間は見込めないだろうと述べた。

「私が正常と呼べる状態に我々が戻るまでには、まだ長い時間を要するだろう」と彼は述べた。

彼はまた、新興市場、特に中国が、欧米経済から切り離され、持続可能なやり方で発展することを期待した。

スティグリッツは、ネーション・マルチメディア・グループの編集主幹、スッティチャイ・ユンとの壇上でのインタビューで語った。これに先立ち、彼は、トゥラギットバンディット大学での国際学術セミナーにおいてグローバル経済の見通しに関する講演を行った。

このノーベル賞受賞者は、緊縮政策は景気後退と不況につながることが明らかとなったと述べて、これを批判した。繰り返されてきた先進国の過ちを避けるためには、新興経済は教育や工学、環境や公衆衛生に投資し、持続可能な経済成長のモデルを見つけるべきであると述べた。

「成長の質、環境、生活水準、利益の分配方法に焦点を当てよ。」と彼は述べた。

アメリカの技術革新は、アメリカ経済の不安定さの一因となった。技術革新は労働のコストを節約するために生み出されたが、今では失業率が大きな問題となっている、と彼は述べた。

日本と同様、アメリカとヨーロッパ諸国もまた、構造改革や教育改革を必要としているが、経済問題に直面しているために、これらを実行するのは容易ではない、とスティグリッツは述べた。

「地域の観点と地球全体の観点から述べるなら、中国が新しい経済成長のモデルを開発することは、極めて重要な課題となる。なぜなら、仮に中国が無制限な消費と物質的な製品に基づく、アメリカの経済成長をまねるならば、我々の惑星は存続できなくなるからである。」

ユーロ圏の問題を論じながら、彼はASEANが向かいつつある共通通貨という考えに反対の意見を述べた。

「もしみなさんが共通通貨の道を探ろうとしておられるならば、それは誤った考えだ。皆さんはアジアの協力について語るべきであるが、共通通貨は、適応能力や調整能力をそぐものである。」と彼は述べた。

「共通市場はよい考えである。市場の問題は比較的小さいが、規模の経済から恩恵を受けることができる。」

スティグリッツは、企業による政治家に対するロビー活動が、経済問題の解決の妨げとなっていると述べた。

彼はまた、アメリカが他の国々と妥結を目指している環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)は危険であると警告した。

「交渉は閉ざされたドアの向こう側で行われており、企業が交渉のテーブルについている」と彼は述べた。

この秘密交渉において、政治家にロビー活動を行っている企業の一つとして、例えば、製薬会社があげられる、と彼は述べた。

「製薬会社の目標は、利益を上げることだ。彼らのやり方は、基礎研究の費用をアメリカ政府に支払わせながら、みなさんに高い価格を払わせることだ。」と彼は述べた。

「製薬業界のロビイスト達はジェネリック医薬品産業の発展にとって非常に悪しき存在だ。タイはジェネリック医薬品の製造を得意分野とする国のひとつなのだ。この分野から撤退するのは間違っている。しかしTPPに加入してしまうとそうせざるを得なくなるだろう。」

昨年、アメリカのオバマ大統領がタイを訪問したとき、大統領はタイがTPPに参加するように説得しようとしていた。

チャンネル桜の上念司や倉山満といった論客たちは、最近、TPPが危険ではないかのように言い始めています。

しかし、このノーベル経済学賞受賞者は、上念司や倉山満とは正反対の考えを持っています。

スティグリッツ教授は、TPPに参加してはならないと、私たちに警告しているのです。

みなさんは、スティグリッツ教授の言葉と、上念司や倉山満の言葉のどちらを信じますか?


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コメント

そもそも後からTPP不参加にするくらいなら、最初から交渉参加なんかしないつーの。安倍は1年以上前の最初からTPPに参加するつもりの証拠だってある。安倍はTPP参加派の真性売国奴だツーの。

どうか安倍信者は、安倍の保守の仮面にいつまでも騙されず、目を覚まして欲しい。そしてTPPに急いで反対して欲しい。TPPの危険な本質は何も変わっていない。そして交渉は既に一切不可能なのだと。TPPには百害あって一利も無しなのだと。

投稿: だめだめわんこ | 2013年3月25日 (月) 07時18分

倉山氏と上念氏の動画を見ました。(TPPに関しては52分頃から)

「ステージが変わったから」の一言でTPPの中身が全て変わってしまったかのように決めつけてます。
あとは「安倍さんの交渉力なら不参加に持っていける」とごまかしてるようにしか見えません。

ひどいものです。

投稿: たかたろ | 2013年3月25日 (月) 00時41分

先程コメントした者ですが

「交渉は閉ざされたドアの向こう側で行われており、企業が交渉のテーブルについている」と彼は述べた。

このパラグラフを下じゃなくて上に移動して欲しかったです。

投稿: 自民支持・安倍内閣不支持・TPP反対 | 2013年3月24日 (日) 21時09分

翻訳お疲れ様です。以下は私信のようなものなので非公開でもいいです。

"They are very bad for the development of generic drug industries. Thailand is one of the good countries in this area. It would be a mistake for you to give up on that. And if you join the TPP, you will have to,"

「製薬業界のロビイスト達はジェネリック医薬品産業の発展にとって非常に悪しき存在だ。タイはジェネリック医薬品の製造を得意分野とする国のひとつなのだ。この分野から撤退するのは間違っている。しかしTPPに加入してしまうとそうせざるを得なくなるだろう。」

あと細かい指摘ですが最後から4番目と5番目のパラグラフの順番が逆になってます。こっそり直しちゃってください。

投稿: 自民支持・安倍内閣不支持・TPP反対 | 2013年3月24日 (日) 18時48分

やみ子さん
もちろん自由にご活用ください。

投稿: WJF | 2013年3月24日 (日) 02時02分

スティグリッツ教授のタイの人々への警告、大変参考になりました。この部分コピペして、広めてもよろしいでしょうか?

投稿: やみ子 | 2013年3月24日 (日) 00時35分

環太平洋演習に中国が初参加へ、米招待に応じる
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20130322-OYT1T00774.htm?from=top

日本、舐められまくりですね。
これもTPPで言うなりになれよの1つでしょうね。
悔しいです。

投稿: 朝顔 | 2013年3月22日 (金) 15時15分

いつもながら、示唆に富む記事執筆とご紹介をありがとうございます。じっくり注意深く読んでみます。現在PCからFaxを送れる環境になったので、特に自民参院議員を中心にFax戦線頑張っています。メールだと眉ひとつ動かさずに削除されるかもしれませんが、Faxだと相手にもコストがかかるし、手に取るものなのでポイントだけでも「強調文字」にしておくと一瞬でも目に入るのではと期待しています。しかし、上のお二方はどうしてこんなに笑っていられるのか理解に苦しみます。私でさえ日々悶々としてしまうのに。悲しい話、WJF様がおっしゃっているように、彼らは今の生活や地位に満足していて、それが守れるのなら別にいいのでしょうね。そうとしか思えません。みなさんとともに引き続き頑張ります。

投稿: たま | 2013年3月22日 (金) 15時03分

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