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2013年3月22日 (金)

「対中包囲網」という絵空事

日本が、TPPに参加する口実としてしばしば使われる「対中包囲網」という言葉。たとえば安倍内閣の内閣官房参与の一人である谷内正太郎氏は次のように書いています。

TPP参加は「強い安保・経済」への分水嶺

安全保障の観点から、西太平洋における力の実態を眺めてみれば、更にくっきりと、全く異なる絵柄が浮かび上がる。西太平洋地域の力の実体は、大陸国家であり、旧共産圏であり、国連安保理常任理事国であり、核兵器保有国であり、強大な通常兵力を保有するロシアと中国である。ロシア軍の総兵力は、冷戦後、約100万人に縮小したが、通常兵力の劣勢を戦略・戦術核兵器で補うべく、核の先制使用を公言し始めた。総兵力200万人の中国軍は、世界第2位に躍り出た経済力を背景に、1990年代から進めてきた近代化に余念がない。既に、中国の軍事予算は日本の2倍を上回っていると思われ、米国軍事予算の半分に迫ろうとしている。2020年頃には、中国軍の総合的能力は、米国を除けば、東アジア随一のものとなるであろう。

これに対抗できる勢力は、米国の太平洋同盟網しかない。日米同盟、米韓同盟、米豪同盟である。核戦力、通常戦力で圧倒的な米国が、海軍力で太平洋を抑え、西太平洋海浜部にある日本、韓国に兵力の一部を前方展開することによって、大陸側の中国、ロシアとの均衡を保っている。米軍の総兵力は150万人である。その装備は情報技術を駆使した最先端のものである。これに、日本の自衛隊24万人、韓国軍67万人、豪州軍5万人の兵力が加わる。仮に、大きな紛争になれば、米国は、同盟国である欧州主要国にも援軍の要請が出来る。冷戦時代に、自衛隊が怖いからロシア軍が日本に手を出さなかったと考える人はいなかったであろう。同様に、21世紀に、自衛隊が怖いから人民解放軍が日本に手を出さないと考える人もいないだろう。アジア太平洋という枠組みで、米国を秤に掛けて考えてこそ、初めて中露両国との安定的均衡が維持できているのである。

冷戦が終わって20年も経つのに、中国やロシアという旧共産圏を、日本やアメリカなど「太平洋同盟」で包囲しようというのですが、この谷内正太郎氏は、「民主主義 vs 社会主義」「資本主義 vs 共産主義」などといった、冷戦時代の時代錯誤的なパラダイムから未だに抜け出していらっしゃらないのでしょうか。

安倍政権やチャンネル桜周辺の人々は、このように冷戦時代さながらの二極構造を描くことが大好きなのですが、私はそのような彼らの姿勢をインチキ「保守」の見分け方という記事で批判しました。

冷戦終結後の現代は、冷戦時代のような「資本主義VS共産主義」という二極構造の時代ではなく、冷戦に勝利し、世界の一極支配を目指したアメリカに端緒を発する「一極(グローバリズム) VS 多極(各国民国家/民族国家)」の時代です。

将来、米中の力が逆転するならば、この「一極」の座に、アメリカに代わって、中国が座ることになるのかもしれませんが、それよりも大きな可能性として考えられるのは、アメリカも中国も混然と一つに溶け合ったグローバルな力が、他の国々を呑み込んでいくという構図ではないでしょうか。

にも関わらず、このような現在の情勢を無視して、冷戦時代の時代遅れな二極的構図を無理やりに当てはめようとしているのが安倍政権であり、その二極的な物の見方に基づく、「セキュリティー・ダイアモンド構想」や「対中包囲網」なる発想を、私は愛国者の二つの意味という記事で次のように批判しました。

これに対して、日本、アメリカ、オーストラリア、インドで中国を包囲するなどという、安倍氏の「セキュリティー・ダイアモンド構想」は、冷戦の二極構造の焼き直しであり、これからの時代には全く通用しない構想です。冷戦時に米ソが対立したように、今後米中が対立することはありえないからです。この二大国は今後ますます接近し、融和し、日本を包囲するようになります。従って、日本の活路は、第三の道を切り開くことにしかありません。安倍政権は、これからの日本を救うことは決してありません。むしろ間違った方向に私たちを誘導していくでしょう。最悪の場合、日本が消滅します。私たちは、日本の奪還に向けた戦いの準備を始めなくてはなりません。

さて、安倍政権が提唱した「中国包囲網」は、他の国々からどのように受け入れられてきたでしょうか。

インド外相、海洋安保の中国包囲網に慎重 「2国間で」

インドのサルマン・クルシード外相は26日からの訪日を前に、首都ニューデリーで日本経済新聞などの取材に応じた。外相は東シナ海や南シナ海での権益拡大を狙う中国について「最終的には関係国による2国間協議で解決すべきだ」と語った。米国や東南アジア諸国連合(ASEAN)を巻き込んだ「対中包囲網」には慎重な態度を示した。

 インドとの関係改善に取り組むための5項目を発表した中国の習近平新体制には「ハイレベルでの対印交渉を望んでいる兆候は歓迎する」とした。そのうえで「国境問題に関して歴史的な見解の相違はあるが、我々は隣人であり違いを乗り越えるために前に進む」と述べ、新体制と対話を継続していく意向を語った。

 海上安全保障を巡っては、2011年から日米印3カ国の局長級会議が始まった。昨年はインド海軍と海上自衛隊が初の共同訓練を実施し、両国の防衛協力が進む。安倍晋三首相も日本、豪州、インド、米ハワイ州をつなぎ中国を囲む「ダイヤモンド安保構想」を提唱するが「インドはどんな国とも対抗するつもりはない」とした。

 対日関係では東日本大震災後、停滞している日本との原子力協定の交渉も焦点の一つ。「水資源の減少と環境の問題で、インドは原子力エネルギーに依存しなければならない」と述べ、日本の技術移転に向け腰を据えて交渉する意向を示した。

 日印政府間で新幹線の採用を念頭に協議することで一致しているインドの高速鉄道構想。外相は「両国の外相同士が合意すれば、両首相に進言される」と語り、交渉進展に期待を示した。現在、シン首相による年内の訪日の調整を進めている。(ニューデリー=岩城聡)

環太平洋演習に中国が初参加へ、米招待に応じる

【ワシントン=中島健太郎】2014年に米ハワイ沖で米海軍が主催する「環太平洋合同演習(リムパック)」に、中国海軍が初参加を決めたことが21日わかった。

関係筋が読売新聞に明らかにした。オバマ米政権は、太平洋での権益拡大の動きを強める中国との軍事交流を拡大させて軍レベルでの信頼関係を築き、アジア・太平洋の安全保障環境の安定化につなげたい考えだ。

リムパックは2年に1度行われる世界最大規模の海上演習で、パネッタ前国防長官が昨年9月に訪中した際、中国側に参加を呼びかけていた。米海軍が今年に入って正式に招待状を出したところ、中国側から参加の意向が伝えられた。中国は前回までリムパックに招待されず、米国などによる「中国包囲網」だとして演習に反発していた。

(2013年3月22日14時32分 読売新聞)

駐中ベトナム大使、日本との対中包囲は「荒唐無稽」=中国報道

中国メディア・環球網は18日、駐中ベトナム大使が同日、安倍晋三首相のベトナム訪問で「日本とベトナムが共同で中国を包囲する」との見方が出たことに対して「荒唐無稽だ」と否定したことを報じた。

 記事は、ベトナムのグエン・ヴァントゥ駐中大使が18日、中越国交樹立63周年の記者会見上で「日本はベトナムにとって重要な経済パートナーである」と語る一方で、日本と共同で中国を包囲するという見方は「荒唐無稽であり、根拠がないものだ」と発言したと伝えた。

 さらに、グエン大使が「我が国は第2次対戦前後の、日本との不愉快な歴史を忘れない。ベトナム国民も忘れないとし、過去も現在も日本や米国と組んで中国に対抗しようとしたことは一度もないと語ったことを紹介した。

 グエン大使は会見の中で南シナ海問題についても言及。「南沙諸島(ベトナム名称は長沙諸島)は複数国にかかわる問題であり、協力体制を模索することで解決しなければならない」とし、2国間協議による解決を求める中国側をけん制した。(編集担当:柳川俊之)

世界のどの国も参加してくれない「対中包囲網」。

アメリカですら、安倍政権がうたう「対中包囲網」なるものを鼻でせせらわらっているのが現実です。

「アメリカ(善)vs中国(悪)」などといった単純で二極的な善悪二元論や、中国脅威論に煽られ、「対中包囲網」といった絵空事を信じて、TPPに参加し、国を失うほど、ばかげたことはありません。



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