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2013年3月12日 (火)

「主権回復の日」とダブルバインド

安倍政権がサンフランシスコ講和条約の発効を祝う「主権回復の日」式典の政府主催を決めました。

4月28日に主権回復記念式典…閣議決定閣議決定

政府は12日午前の閣議で、1952年4月28日のサンフランシスコ講和条約発効を踏まえ、日本の主権回復と国際社会復帰を記念する式典を4月28日に政府主催で開催することを決定した。

国会近くの憲政記念館に天皇、皇后両陛下をお迎えし、安倍首相ら各界の代表者が出席する。

安倍首相は閣議で、「奄美、小笠原、沖縄が戦後一定期間、我が国の施政権の外に置かれた苦難の歴史を忘れてはならない。沖縄の基地負担の軽減に取り組むとともに、奄美、小笠原、沖縄を含めた我が国の未来を切り開いていく決意を新たにすることが重要だ」と述べた。72年まで米国の施政下にとどめ置かれた沖縄県には式典への反発があるため、配慮を示した。政府は、仲井真弘多沖縄県知事ら各都道府県知事も招待する方針だ。(2013年3月12日13時43分 読売新聞)

1951年9月8日、日本は西側の48ヶ国と、サンフランシスコ講和条約を結び、第二次世界大戦の講和を果たしました。

1952年4月28日、サンフランシスコ講和条約の発効と共に、GHQによる占領が終わり、日本は正式に主権を回復し、国際社会に復帰しました。

同時に、サンフランシスコ講和条約と同じ日に署名され、発効した日米安保条約により、日本の主権回復の後も、アメリカ軍は在日米軍として日本に駐留を続けることになりました。

1952年4月28日は、日本にとって主権を回復した日であるのと同時に、まさに日本の戦後体制がスタートした日でもあります。

「戦後体制からの脱却」をめざす政権が、どうして「戦後体制の始まり」の日を祝う必要があるのか、はなはだ疑問です。

また、1952年4月28日は、日本本土にとっては主権回復の日ですが、沖縄にとっては、日本から切り離されてアメリカの統治下に置かれることになった日です。実際、沖縄ではこの日は「屈辱の日」と呼ばれてきたそうです。

どうして、日本中が一緒になって祝うことができないような式典を、安倍政権は、政府主催で行おうとするのでしょうか。

現在のように尖閣諸島や沖縄周辺の情勢が緊迫化している情勢化で、なぜ沖縄を置いてけぼりにし、仲間はずれにするような式典を開くのでしょう。

韓国に配慮をして「竹島の日」の政府主催を見送ったこの政権は、日本国民である沖縄の人々の神経をさかなでることは憚らないのでしょうか。

沖縄の分離独立を可能にしてしまうような道州制を、現在のような情勢下で導入しようとしている事実を鑑みても、安倍政権は、本当に沖縄や尖閣諸島を守る意思があるのかと疑問をいだかずにはいられません。

また、安倍政権は、TPP交渉参加によって日本が国家主権を喪失しようとしている、まさにこの時に、「主権回復の日」をぶつけてきたわけです。

これもまた、まさに、ダブルバインドの論法そのものであり、じつに安倍政権的なやり方とは言えないでしょうか。

安倍政権は、正反対の矛盾するメッセージや政策を同時に掲げることで、国民が問題の本質を理解しにくい状況を作る、ダブルバインド的論法を繰り返し使ってきました。

例えば、『新しい国へ 美しい国へ 完全版』の中で安倍晋三氏は、次のように述べています。

「瑞穂の国の資本主義」

特に総理を辞めてからの五年間、公園やミニ集会などで地方の窮状を実感する機会が数多くありました。例えば私の地元である山陰地方の場合、新幹線もなければ高速道路もない。人件費は東京に比べれば安いですが、中国のミャンマーなどに比べれば高い。つまり企業を誘致しようにも来てくれないのです。

しかしながら、日中関係が不安定な中で、日本の地方に眠る質の高い労働力に注目が集まりつつあります。交通や道路などのインフラを整備し、国内におけるヒト・モノ・カネの移動の速度を上げることで、こうした国内資産を活用できるはずです。

あるいは、私の地元や九州の場合、地理的な距離でいえば、東京よりも中国の都市の方が近い。場合によっては日本の高品質な農産物の中国への輸出、労働力の交流も直接行った方が双方に利益があるかもしれません。

私は長期的には、東京一極集中を解消して道州制を導入すべきだろうと考えています。日本を十ぐらいのブロックに分けて、そこに中央政府から人を移して、州政府のようなものをつくり、その下に基礎自治体が有るイメージです。そうすることで、いちいち中央を通さなくても、各州が独自の判断でスピーディに動くことができる。東京だけでなく、日本全体が活力を取り戻さない限り、日本の再生はありえないと私は考えています。

日本という国は古来、朝早く起きて、汗を流して田畑を耕し、水を分かち合いながら、秋になれば天皇家を中心に五穀豊穣を祈ってきた、「瑞穂の国」であります。

自立自助を基本とし、不幸にして誰かが病に倒れれば、村の人たちみんなでこれを助ける。これが日本古来の社会保障であり、日本人のDNAに組み込まれているものです。

私は瑞穂の国には、瑞穂の国にふさわしい資本主義があるのだろうと思っています。自由な競争と開かれた経済を重視しつつ、しかし、ウォール街から世間を席巻した、強欲を原動力とするような資本主義ではなく、道義を重んじ、真の豊かさを知る、瑞穂の国には、瑞穂の国にふさわしい市場主義の形があります。

安倍家のルーツは長門市、かつての油谷町です。そこには棚田があります。日本海に面していて、水を張っているときは、ひとつひとつの棚田に月が映り、遠くの漁火が映り、それは息をのむほど美しい。

棚田は労働生産性も低く、経済合理性からすればナンセンスかもしれません。しかしこの美しい棚田があってこそ、私の故郷なのです。そして、その田園風景があってこそ、麗しい日本ではないかと思います。

市場主義の中で、伝統、文化、地域が重んじられる、瑞穂の国にふさわしい経済の有り方を考えていきたいと思います。

上の文章の中で

A. 瑞穂の国の資本主義が守られなければならない
B.(実際には瑞穂の国の資本主義を破壊してしまう)道州制を推進すべきである

と矛盾したメッセージが同時に記されているのがお解りになると思います。

他にも例はたくさんあります。

A. 日本を取り戻す
B. (実際には)日本を売り渡す

A. 戦後レジームからの脱却
B. (実際には)対米隷属の徹底

A.アベノミクスによるデフレからの脱却
B. 新自由主義的なデフレを促進する政策

矛盾した二つのメッセージ。

矛盾した二つの政策。

それを同時に並べられる時、人は判断を見失い、一種の思考停止に陥らざるを得なくなります。

安倍政権がなぜダブルバインド的な論法を多用するのか。

端的に言えば、国民に語る見せかけの言葉の背後に、それとは正反対の別の意図を隠しているからです。

だからこそ、私はこの政権は、過去に例がないほど「邪悪」な政権であると申し上げているのです。

そして見かけのイメージに多くの人々が騙されていることに焦りと危機感を感じてきたのです。

ダブルバインドについては、「彼ら」の洗脳手法(1): ダブルバインド(二重拘束)という記事をお読みください。


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